遺言書とは、被相続人(故人)の最終的な意思表示を記した書類のことをいいます。
遺言書を残した場合は、ほぼ確実に自分の財産を意に沿った形で相続人に相続させることができます。
(相続人が遺留分減殺請求権を行使する可能性もありますが、その可能性は低いです。)
一方、遺言書を残していない場合は、相続人同士で遺産分割協議をする必要があり、そこから相続時のトラブルに発展する可能性があります。
遺言書があることで、被相続人の意思に沿った内容で遺産を分割したり、相続時のトラブルを防いだりするのに役立ちますので、相続時のトラブルが見込まれる場合や、兄弟相続などの場合等は特に遺言書を残す意味が有ります。
主な遺言書は大きく分けて3種類ある
遺言書には一般に自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。
これらの遺言書には、以下のように作成方法や保管方法などの違いがあります。
それぞれの特徴やメリット・デメリット、作成の大まかな流れなどを詳しく確認しましょう。
自筆証書遺言
本人が自筆で作成・捺印した遺言書
公正証書遺言
公証人に作成してもらい、本人、公証人、2名以上の証人が署名・捺印した遺言書
秘密証書遺言
本人が作成・捺印し、封紙に公証人と2名以上の証人が署名・捺印した遺言書
公証人とは?
公証人とは、公正証書の作成など、公証事務を行う人のことです。 公証人のほとんどが裁判官、検察官、弁護士として法律実務に携わってきた経験がある人たちです。 中立・公正な立場から公証実務を行います。
公正証書遺言や秘密証書遺言で必要な証人とは?
公正証書遺言や秘密証書遺言では、証人が必要です。 以下の人は、遺言者の利害関係人として、証人になれないと規定されています。 未成年者 推定相続人や受遺者の本人・配偶者・直系血族 公証人の配偶者・四親等内の親族・書記・使用人
家庭裁判所の検認とは
検認とは、相続人に対して遺言書の存在及びその内容を知らせるとともに、検認日現在の遺言書の内容を明確にすることで遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。
家庭裁判所に検認の手続きを申し立てると、出席した相続人立ち合いのもと、裁判官が遺言書を開封します。
検認を受けずに遺言書を開封してしまうと、5万円の過料となる可能性がありますが、検認を受けずに開封した遺言書も無効にはなりません。
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、被相続人が自筆で作成する遺言書のことです。
自筆証書遺言のメリット
・いつでも遺言書を残せる
・費用がかからない
・作り直しがいつでも手軽に出来る
自筆証書遺言のデメリット
・遺言書の方式を誤ると無効になる
・自筆できない場合は利用できない
・家庭裁判所での検認が必要になる(法務局保管制度の利用により検認が不要となる方法もあります)
・滅失・偽造・変造のおそれがある(法務局保管制度の利用により滅失・偽造・変造を避ける方法もあります)
自筆証書遺言の作成の流れ
自筆証書遺言は、次のような流れで作成します。
遺言書を書くための便箋、封筒、ペン、印鑑などを用意する
↓
遺言内容を考えてから遺言書の下書きを作成する
↓
有効な遺言内容になるよう正確に遺言書を作成・押印する
↓
作成した遺言書を保管する
公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証役場の公証人に作成してもらう遺言書のことです。
公証役場に行って作成する必要がありますが、自筆証書遺言と異なり形式的な間違いが起こりにくく、保管場所も安全であることがメリットとなっています。
公正証書遺言のメリット
・形式的な誤りが生じにくい
・家庭裁判所での検認が必要ない
・改ざんの心配がない
・原本は公証役場で保管してくれる
公正証書遺言のデメリット
・作成に手間と時間がかかる
・費用が発生する
・証人2名の立会いが必要
・存在や内容を秘密にできない
公正証書遺言の作成の流れ
公正証書遺言は、次のような流れで作成します。
遺言者が遺言内容を考えて遺言書の原案を作成し、必要書類を用意する
↓
公証人と遺言内容について協議する
↓
証人2名と公証役場に行き公正証書遺言を作成する 公正証書遺言の作成手数料を支払う 作成した原本を公証役場に保管してもらう
公正証書遺言の方式
1.証人二人以上の立会いがあること。
2.遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
3.公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
4.遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
5.公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。
公正証書遺言の作成に必要な資料
公正証書遺言を作る際は、以下のような資料が必要になります。 (遺言の内容によって必要になる書類が異なるため、ご自身が作成したい内容をもとに資料を用意しておきましょう。)
遺言者の本人確認資料(運転免許証、印鑑登録証明書、住基カードなど)
遺言者と相続人の続柄がわかる戸籍謄本 受遺者の住民票(相続人以外に遺贈する場合)
固定資産税納税通知書または固定資産評価証明書(不動産がある場合)
不動産の登記簿謄本(遺言で不動産を特定する場合)
証人予定者の氏名・住所・生年月日・職業のメモ 遺言執行者の氏名・住所・生年月日・職業のメモ(相続人・受遺者以外に設定する場合)
公正証書遺言の作成にかかる費用
公正証書遺言を作成する場合は、手数料がかかります。
手数料は相続財産の価額に応じて異なります。
相続財産の価値 → 手数料
100万円以下→ 5,000円
100万円を超え200万円以下→ 7,000円
200万円を超え500万円以下→ 10,000円
500万円を超え1,000万円以下→ 17,000円
1,000万円を超え3,000万円以下→ 23,000円
3,000万円を超え5,000万円以下→ 29,000円
5,000万円を超え1億円以下→ 43,000円
1億円を超え3億円以下→ 43,000円(超過額5,000万円ごとに13,000円を加算)
3億円を超え10億円以下→ 95,000円(超過額5,000万円ごとに11,000円を加算)
10億円超→ 249,000円(超過額5,000万円ごとに8,000円を加算)
なお、公正証書遺言の手数料は相続人ごとに計算します。
たとえば、相続財産の合計額が1億円で配偶者と子どもにそれぞれ5,000万円ずつを相続する場合の手数料は、「3,000万円を超え5,000万円以下の手数料×2人分」で58,000円となります。
相続財産の合計額での区分ではないのでご注意ください。
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言の存在自体は公証役場で公証してもらいつつ、遺言内容は誰にも知られずに作成できる遺言書です。 遺言者が作成した遺言書を公証役場に持って行き、公証人と証人2名に署名・捺印してもらうことで、その遺言書が間違いなく本人のものであると証明できるようになります。
なお、この手続きは、実務上あまり利用されていません。
秘密証書遺言のメリット
・遺言書が本人のものであることを明確にできる
・代筆やパソコンでの作成ができる
・遺言の内容を秘密にできる
・改ざんされる心配が少ない
・公証役場に記録が残る
秘密証書遺言のデメリット
・不備が残る可能性がある
・家庭裁判所の検認が必要になる
・手数料として11,000円がかかる
・紛失のリスクがある
・公正証書遺言と同等の手間がかかる
秘密証書遺言の作成の流れ
秘密証書遺言は、次のような流れで作成します。
遺言書を作成するための道具(パソコン等)を用意する
↓
遺言内容を考えてから遺言書を作成する
↓
証人2名と公証役場に行き、公証人と証人の署名・捺印をもらう
↓
作成した遺言書を大切に保管する
その他特別方式による遺言書
以上の自筆証書遺言などのような遺言を残せない特別な状況にある場合は、一般危急時遺言、難船危急時遺言、一般隔絶地遺言、船舶隔絶地遺言といった特別方式による遺言を残すことができます。
特別方式の分類 遺言書の種類 条件と意味
危急時遺言
一般危急時遺言 (民法第976条) 疾病やその他の理由で死亡の危機がある場合に、3名以上の証人の立会いの下、口頭でおこなう遺言。本人が書くことも可能。
難船危急時遺言 (民法第979条) 遭難中の船舶の中で死亡の危機がある場合に、証人2名以上の立会いの下、口頭でおこなう遺言。本人が書くことも可能。
隔絶地遺言
一般隔絶地遺言 (民法第977条) 伝染病などで外界との接触を断たれた場所にいる者が、警察官1名と証人1名以上の立会いの下でおこなう遺言。本人が作成。
船舶隔絶地遺言 (民法第978条) 船舶中で外界から隔絶されている者が、船舶関係者1名および証人2名以上の立会いの下でおこなう遺言。本人が作成。 特別方式遺言は、遺言者が普通方式による遺言ができるようになってから6ヵ月間にわたって生存した場合には効力が失われます(民法第983条)。